- HOME
- コラム
- 【自賠責保険】人傷保険金と自賠責保険金の代位について
【自賠責保険】人傷保険金と自賠責保険金の代位について
例えば,ある交通事故で,被害者に人傷保険金6000万円が支払われたとします。
さらに,被害者が加害者に対する損害賠償請求訴訟を提起し,裁判所が総損害額1億円,被害者の過失割合を4割と認定したとします。
この場合,被害者は加害者に対し,訴訟でいくら請求できるでしょうか?
この点,訴訟基準差額説(最高裁平成24年2月20日判決)によれば,
人傷保険金6000万円は,まず被害者の過失部分(1億×40%=4000万円)に充当されますので,人傷社が加害者に求償できるのは,6000万円-4000万円=2000万円に限られることになります。
従って,被害者は,加害者に対し,なお4000万円を請求でき,結果的に総損害額1億円の補償を受けることができます。
では,人傷社が被害者に人傷保険金6000万円を支払った後(「人傷一括払い」),加害者の自賠責から3000万円を回収した場合,どうなるでしょうか。
この点,2011年版赤い本講演録93頁以下で,森健二裁判官は,「人傷社による自賠責保険金の回収は被害者本人への支払とは同視できない。あくまで差額説を前提として人傷社の代位取得額が定まり,人傷社が自賠責を回収したかどうかで代位取得額は変わらない」という考え方を前提に,自賠責保険金は人傷保険金部分内に位置付けるのが妥当(不当利得容認説)とされています。
この考え方によれば,被害者は,人傷社による自賠責の回収があっても(なくても),加害者に対して4000万円を請求できることになります。
他方,人傷社は本来2000万円の限度で加害者に求償できたに過ぎなかったのに,自賠責から3000万円回収することになり,その意味で「取りすぎ」(=不当利得)が生じますが,それは加害者と人傷社で調整すればよいと指摘されています。
訴訟基準差額説の趣旨を尊重するなら,人傷社による自賠責の回収の有無によって被害者への実際の補償額が変わるのは望ましくありませんから,森裁判官の意見に私も賛成です。
当事務所の交通事故コラム一覧
・
【自賠責保険】保有者に運行供用者責任が発生しない場合
・
【自賠責保険】人傷保険金と自賠責保険金の代位について
・
平成27年賃金センサス(年収額)
・
【研修】胸郭出口症候群
・
平成26年賃金センサス(年収額)
・
平成25年賃金センサス(年収額)