Q
自賠責保険では被害者に落ち度があっても過失相殺がないと聞きましたが,どうなのでしょうか。
A
自賠責保険では,通常行われる過失相殺はせず,被害者の落ち度が大きいときだけ(7割以上)保
険金額を一定の割合で減額して支払っています。
民法722条2項は,「被害者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の額
を定めることができる。」としています。これは,公平の原則から,被害者の過失を考慮して,
被った被害の額から合理的な減額をした額を加害者が現実に賠償義務を負うべき額とするものです。
運行供用者責任には民法の適用があります(自賠法4条)ので,自賠法の原則的な立場として
は,過失相殺の規定もそのまま自賠法に適用することになるはずです。
もっとも,「支払基準」(自賠法16条の3)では「重大な過失による減額」が定められていて,
通常の過失相殺とは異なり,相当大きな過失がある場合に初めて減額されます。
減額率は,訴訟において認定される過失相殺率と比べてだいぶ少ない割合の減額ですので,被害
者に有利な扱いがなされているといえます。被害者の死亡と事故の因果関係の認定が困難な事案で
あっても,5割減額にとどまります。
積算した損害額が保険金額未満の場合には,積算した損害額から減額され,積算した損害額が保
険金額を超える場合には保険金額から減額されます。
例:・死亡事故,損害額が4,000万円,被害者に90%以上の過失→50%減額
3,000万円(死亡保険金額)×(1-0.5)=1,500万円が支払われます。
・同じ事例で損害額が2,800万円だった場合
2,800万円(現実の損害額)×(1-0.5)=1,400万円が支払われます。
→裁判では,通常の過失相殺がなされ,それぞれ400万円と280万円となりますので,訴訟
をするより自賠責保険に請求した方が有利になります。
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