① 脳外傷を裏付ける画像所見がある
びまん性軸索損傷の場合,受傷直後の画像は一見正常である場合が少なくありません。
ただ,軸索が損傷した箇所に点状出血を生じる場合があり,また,脳室内出血やくも膜下出血を起こしやすいという特徴があります。これらの画像所見があれば,外傷に伴う脳損傷の存在が確認されやすいといえます。
そのため,事故後早期にCTやMRIを撮影することが望ましく,受傷後2~3日以内にMRIの拡散強調画像DWIを撮影することができれば,微細な損傷を鋭敏に捉える可能性があることが指摘されています(自賠責保険平成23年報告書)。
しかし,これらの画像検査では,びまん性軸索損傷の発見は難しいことが多いとされます。
びまん性軸索損傷は,大脳白質部内部に張り巡らされた神経コードの広範な断線が推定される症状ですが,神経コードそのものは現在の画像技術では撮影できないからです。
そこで,CTやMRIなどの画像資料を経時的に比較検討し,脳室拡大・脳萎縮の有無を確認することが重要になります。
脳外傷による高次脳機能障害患者については,受傷からおよそ3ヶ月程度で外傷後の脳室拡大(脳萎縮)は固定し,以後はあまり変化しないとされています。
ある程度期間が経過した時点で,画像上,脳室拡大や脳萎縮が確認されれば,神経コードの断線(軸索組織の傷害)が生じたことを合理的に推認でき,出血や脳挫傷などの痕跡が乏しい場合であっても,びまん性軸索損傷の発生を肯定できるとされています。
② 一定期間の意識障害
脳神経外科では,意識状態を検査することが脳機能を推定する重要なポイントになります。
一般に多用されている検査はJCS(ジャパン・コーマ・スケール),GCS(グラスコー・コーマ・スケール)です。
高次脳機能障害は,意識消失を伴うような頭部外傷後に起こりやすいという特徴があります。
脳外傷直後の意識障害がおよそ6時間以上継続するケースでは,永続的な高次脳機能障害が残ることが多いとされており(自賠責保険平成19年報告書),一定時間の意識障害の継続が,後遺障害として残存する高次脳機能障害の発症を判断するポイントであることが示唆されています。
受傷直後において,半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態(JSCが3~2桁,GCSが12点以下)が6時間以上継続すると,後遺障害発生のおそれがあるとされます。
また,健忘症あるいは軽度意識障害(JSCが1桁,GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続くと,障害発生の可能性が出てくるとされます。
③ 特有の精神症状の存在
脳外傷による高次脳機能障害に典型的な症状は,以下のようなものとされています(自賠責保険平成23年報告書)。
A) 認知障害
記憶・記銘力障害,注意・集中力障害,遂行機能障害などで,具体的には,新しいことを覚えられない,気が散りやすい,行動を計画して実行することができない,など。
B) 行動障害
周囲の状況に合わせた適切な行動ができない,複数のことを同時に処理できない,職場や社会のマナーやルールを守れない,話が回りくどく要点を相手に伝えることができない,行動を抑制できない,危険を予測・察知して回避的行動をすることができない,など。
C) 人格変化
受傷前には見られなかったような,自発性低下,衝動性,易努性など。
自賠責保険における認定システム
自賠責保険では,高次脳機能障害に関する事案の抽出漏れがないように,次のような症例を「特定事案」として高次脳機能障害審査会で判断しています。
A) 経過診断書または後遺障害診断書において,高次脳機能障害,脳挫傷(後遺症),びまん性軸索損傷,びまん性脳損傷等の診断がなされている症例
B) 経過診断書または後遺障害診断書において,高次脳機能障害を示唆する具体的な症状(記憶・記銘力障害,失見当識,知能低下,判断力低下,感情易変,暴言・暴力等),あるいは失調性歩行,痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経徴候が認められる症例,さらには知能検査など各種神経心理学的検査が施行されている症例
C) 初診時に頭部外傷の診断があり,頭部外傷後の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JSCが3桁,GCSが8点以下)が少なくとも6時間以上,もしくは,健忘症あるいは軽度意識障害(JSCが2桁,GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いた症例
D) 頭部画像上,初診時の脳外傷が明らかで,少なくとも3ヶ月居ないに脳室拡大・脳萎縮が確認される症例
E) その他,脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例