なお,頚椎捻挫と診断された場合であっても,特に事故態様が重大な場合,脳や脊髄に損傷を負っている場合や,脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)を発症している場合があります。
むち打ち症の等級認定について
等級 |
労働能力喪失率 |
労働能力喪失期間 |
認定基準 |
12級13号 |
14% |
5~10年 |
局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 |
5% |
5年以下 |
局部に神経症状を残すもの |
検査方法
画像検査
A) レントゲン(単純XP)
レントゲン検査は,エックス線を目的の物質に照射し,透過したエックス線を写真フィルムなどの検出器で可視化することで,内部の様子を知る画像検査法の一種です。
骨病変の診断に有効であり,現在でも骨折の診断には有用な検査方法の一つです。
むち打ちの場合でも,一時的な検査としてレントゲン検査を行い,頸椎の骨折・脱臼(器質的な変化)がないかどうかを調べます。
側面像の撮影では,頸椎の前彎が消失していないかチェックします。
正常な頸椎は,必ず前彎し,弓のようになっています。
しかし,交通事故の衝撃でむち打ちになり,神経症状があるような場合,前彎が消失してストレートになってくることが多いと言われています。
また,斜位像の撮影により,神経根が出る椎間孔をチェックします。
高齢者やスポーツや事故で過去に外傷を負った方は,その椎間孔が狭くなっていることが多いです。つまり,既往症や素因についても,レントゲンで一時的な検査を行うことができます。
B) MRI
MRI検査は,強力な磁石でできた筒の中に入り,磁気の力を利用して体の臓器や血管を撮影する検査です。
MRIの画像には,T1強調像(脊髄,椎骨が白っぽく写り,脊髄液は黒く写る),T2強調像(脊髄,椎骨が黒っぽく写り,脊髄液は白く写る)などがあります。
また,脊髄などの状態は,矢状断(体を左右に縦切りにした断面)と水平断(体を水平に輪切りにした断面)の両方で確認します。
MRI検査では,レントゲン検査と異なり,脊髄,椎間板,靭帯,などの軟部組織を,エックス線被爆なく描出できるため,神経根の圧迫や椎間板ヘルニアなどの状態を確認できます。
MRIの磁力の大きさを表す単位をテスラといいます。現在,臨床で使用されているMRIは,0.2~3.0テスラまであり,その数値が大きいほど質の高い画像を描出することができます。
例えば,0.5テスラのMRIで写らなかった神経根の圧迫が1.5テスラのMRIで写るということもあります(ただし,テスラによって得意不得意部位があります。)。
C) CT
頭部をエックス線撮影し,それをコンピュータ処理して,頭蓋骨の中の様子を5mm~1cm間隔の輪切りにした画像を映し出す検査です。造影剤を使わないで撮影する「単純撮影」と,造影剤を使って撮影する「造影撮影」があります。
CT検査では,脳に出血があると画面に白い影が映るため,頭蓋内の出血の範囲が分かり,出血部位も推定できます。
むち打ちの場合でも,頭部を強く打った場合は頭部CT検査をお勧めします。
D) SPECT・PET
SPECTとは,シングル・フォト・エミッションCTの略語で,体内に注入したRI(放射性同位元素)の分布状況を断層画面で見る検査のことです。
PETはポジトロン・エミッション・トモグラフィーの略語で,ポジトロンCTともいわれる核医学診断装置のことです。
SPECT・PET検査では,脳の断面の血流状態が分かるため,血液が悪い虚血領域(脳代謝の低下)を確認することができます。
神経学的検査
神経学的検査では,経過上の一貫性や同一性のほか,画像所見との整合性が重要になります。
例えば,MRIなどで神経根の圧迫が認められ,12級13号の認定の可能性がある場合には,筋萎縮検査を行い,後遺障害診断書に結果を記載してもらうことが有用です。
むち打ちの後遺障害認定のためには,次の3つの検査が効果的です。
A) スパーリングテスト
頭を患側に傾けて下方に押し付けると,神経根の出口が狭められます。
これにより,神経根に障害がある場合には,その神経根の支配領域に痛みや痺れが放散します。
正常であれば,いくら圧迫しても放散通など神経根の症状は出ません。
同じ目的のテストに,ジャクソンテストもあります。
B) 深部腱反射テスト
腱を打腱器(ゴムハンマーなど)で叩くことにより生じる不随意筋収縮をテストします。
脳や脊髄などの中枢神経系の障害の場合には亢進します。
反対に,末梢神経の障害(神経根症)では減弱,消失します。
例えば,膝を叩いた場合,中枢神経系の障害の場合は足が過剰に上がりますが,末梢神経の障害(神経根症)の場合は足が上がらなくなります。
C) 筋萎縮テスト
神経の麻痺が長く続くと,脱力や痺れだけでなく,筋肉が萎縮して痩せてきます。
筋萎縮検査は,この筋萎縮の程度を測る検査であり,両上肢の肘関節の上下10cmのところの上腕部と前腕部の腕周りを計測し判断します。
筋萎縮は,被検者の意思が介在しないため,信用性が高い他覚所見と考えられます。